『VAXEE』CEO・製品開発責任者を務めるXanver Tseng氏が、自身のSNSで新マウス『ZYGEN NP-01S Ergo』の設計理念と開発過程について説明しています

こちらの記事について、日本語版を掲載させていただけることになりました。

ZYGEN NP-01S Ergo について

※以下はXanver Tseng氏が書いた記事の和訳です

『ZYGEN NP-01S Ergo』の設計理念と開発過程

ZYGEN『NP-01S Ergo』は、私と noppo 氏が協力して開発した新しい形状のマウスです。

正式発表の前に皆さんに先行体験していただくため、複数の都市で VAXEE 体験会を開催しました。参加された多くの方からは好意的な評価をいただきました。

主な理由は、『NP-01S Ergo』は独自の形状を持ちながらも、従来の使用感から大きく逸脱しておらず、その基礎の上に最適化がなされているため、多くの方が「これまで使用していた形状よりも手に馴染む」と感じてくださったことだと考えています。

私は元プロゲーマーであり、長年プロ向けのゲーミング製品の開発に従事してきました。その中で痛感しているのは、ゲーミングデバイスはあくまで“ツール”であり、主役は“人”だということです。

すべての人に完璧に合う形状というのは存在しません。私の仕事の楽しみは、eスポーツ市場にさまざまなオリジナル形状を提供し、それぞれ異なる使用感を求めるプロフェッショナルたちの選択肢を広げることにあります。

これまでに開発したさまざまな形状は、時代ごとの e スポーツのスター選手たちにも使用されてきました。その存在が、私自身を常に成長させてくれています。

5 年前、NP-01 の開発を始めた動機は、「なぜ“かぶせ持ち”用のマウス形状は必ず対称でなければならないのか?」という疑問からでした。かぶせ持ちの背面形状をベースに、エルゴノミクス(人間工学)を側面に融合させることはできないのか?長年 eスポーツ市場には「対称型」か「エルゴノミクス型」の 2 択しかなく、NP シリーズはその間を取る“ハイブリッド型”として、新たな選択肢を提示するものでした。

今回の『NP-01S Ergo』の開発は、NP シリーズのハイブリッド型という土台の上で、さらに踏み込んだ挑戦です。

これまでの市場には、①かぶせ持ちに適した対称型、②つかみ持ちに適したエルゴノミクス型の2種類しか存在しませんでしたが、私は満足できませんでした。そこで私は、③やや斜めに持つ「微斜持ち」に適したエルゴノミクス型を開発することにしたのです。

私が初めてゲーミングマウスを開発したのは 2009 年、EC シリーズから始まりました。
その後も AM、FK、ZA、S、NP、AX、XE、E1 シリーズなどを開発してきました。新しい形状を開発するたびに、私はそれを一定期間実際に使用して、使用中に得たフィードバックや改善点、あるいは次に繋がるインスピレーションを次の製品に活かしています。
※運営者補足:「EC、AM、FK、ZA、S」は『ZOWIE』のマウス、「NP、AX、XE、E1」は『VAXEE』のマウス

もともと私はプロゲーマー時代に対称型のマウス(Intellimouse Optical 1.1)を使用してプレイしていたため、筋肉の記憶が対称型に強く馴染んでいました。しかし、いつからか自分の握り方が、対称型でも「かぶせ持ち」から「微斜持ち」へと変化していたことに気付きました。これが、今回の“微斜持ち”形状を開発するきっかけとなりました。

NP-01S は、VAXEE のマウスシリーズの中でも最も多くの人に使われているモデルです。
だからこそ、このモデルをベースに設計することにしました。

今回のコンセプトが「微斜持ち」に適した形状であるため、左側に過剰な高さを加えず、NP-01S の特徴である背面のしっかりとした支えを残すことを重視しました。しかし、それでも一度で理想の形状が完成したわけではありません。

  • 初代の試作では、背面の最も高い位置がマウス中央に移動し、NP-01S の特徴である背面の支えが失われてしまいました。結果、E1 の小型版のような形状になってしまいました。
  • 2 代目はかなり理想に近づきましたが、右側のカーブが弱く、指の自然な配置にはまだ改善の余地がありました。
  • 3 代目では右側のカーブを強調しすぎた結果、マウス全体がやや膨らみすぎてしまいました。
  • 4 代目で再度カーブを調整し、ようやく理想的な形状に仕上がったと感じました。

最終的には、2 代目と4 代目を比較したうえで、4 代目を『NP-01S Ergo』の最終形状として採用することにしました。その理由は、4 代目の握り心地が NP-01S よりやや大きめでありながら、NP-01 よりは小さく、ちょうど中間に位置するサイズ感だったからです。

これにより、NP-01S と NP-01 のどちらにも満足できなかった方々にも、新たな選択肢を提供できると考えました。

ここまでお読みいただいた方にはお気付きいただけたかと思いますが、私が形状設計で最も重視しているのは「実際の手の感触」であり、外見の美しさではありません。

長年の使用と観察を通じて改良点を見出し、元選手としての経験と 20 年間絶え間なく続けてきたマウス開発の中で得られた知見から、新たなデザインのインスピレーションを得て、それぞれのニーズや使用スタイルに応じたマウスを世に送り出してきました。

現在のゲーミングハードウェア市場では、「効率化」や「スピード重視」の傾向が強くありますが、VAXEE の方針は真逆です。品質を最優先するためには、効率を犠牲にすることも辞さないからです。

VAXEE の品質管理担当は、すべてのマウスとマウスパッドを 1 つ 1 つ手作業で検品しています。一般的な企業の基準から見れば非効率的なやり方かもしれませんし、抜き取り検査や統計的手法を用いたほうが時間の節約になるかもしれません。

しかし、私たちは「高品質な製品を届ける」という目標のもと、“賢くないし効率も悪い”全数検品をあえて選んでいます。それでも、完璧は存在しません。

万が一、製品に問題が生じた場合は、原因を皆さんに説明し、補償策を提示したうえで、迅速に改善・修正を行います。なぜなら、私たちは「品質」と「責任」に対する誠実な姿勢こそが、スピードや売上以上に大切だと信じているからです。

『NP-01S Ergo』には、ここでは言葉では伝えきれない特徴や細かな設計意図が数多くあります。

現在、動画制作チームがそれらを紹介する映像を制作しており、8 月中旬に公開予定です。また私自身も工場へ赴き、最終品質チェックと確認作業を行う予定です。

このマウスが、私と noppo 氏の共同開発によって、プロeスポーツ市場に新たな可能性をもたらすことを願っています。

左:noppo氏、右:Xanver Tseng氏

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