『VAXEE』の製品開発者を務めるXanver氏に、エルゴノミクスマウスの設計に関する自身の思いを綴ったコラムを寄稿していただきました。
Xanver氏とエルゴノミクスマウス
Xanver氏は、『ZOWIE』と『VAXEE』で製品開発責任者を務め、数々の名作ゲーミングデバイスを生み出しています。
エルゴノミクスマウスとしては『ZOWIE』のECシリーズ、『VAXEE』のOUTSET AXシリーズやE1などを手掛けています。
そして、直近では『Pulsar』とコラボした最新ゲーミングマウス『Pulsar eS Xlite』が発表されました。
以下のコラムでは、なぜこれらのエルゴノミクスマウスを手掛けることになったのかを、自身のプロゲーマー時代の体験を元に綴っています。
WCGからXliteへ:マウス形状の設計をめぐる歩み by Xanver
私がEC2の形状を設計するきっかけとなったのは、2002~2004年に出場した世界大会『World Cyber Games』での敗北でした。当時、自分が負けた原因を探るため、会場にいたほかの選手たちを観察していたところ 、90%以上の選手がMicrosoftのエルゴノミクスマウス「Intellimouse Explorer(IE) 3.0」を使用していることに気づきました。
その後、自分のパフォーマンスを改善したいと思い、Logitech MX500からIE 3.0に持ち替えました。しかし、集中的に練習を重ねても、エイムは向上するどころか、かえって悪くなってしまいました。
当時、多くのトップ選手が使用していたことから、形状そのものやセンサーに問題があるとは考えていませんでした。本当の原因は、IE 3.0が私にとって大きすぎ、うまくコントロールできなかったことでした。
そのとき、「もっと小さなIE 3.0があれば、自分に合うかもしれない」と考えていました。残念ながら当時はそのような製品がなく、その後は「Microsoft Intellimouse Optical(IO) 1.1」をメインに使用するようになりました。
2009年、私はECシリーズの開発を担当することになりました。EC1は、コラボレーション先のスター選手の要望に合わせて作ったモデルです。一方、EC2は私と同じように、エルゴノミクス形状が好きでも、大きなマウスにはなじめないユーザーのために設計しました。
それから年月が経ちましたが、Xliteの設計における出発点は、当時から変わっていません。 今も、既存のエルゴノミクス形状に完全には満足していないプレイヤーがいると考えています。Xliteでは、そうした方々に、安定した操作感と軽快な操作性の両立を実現したいと考えました。
安定性について私が重要だと考えているのは、マウスの背面が手のひらを支える位置を調整することです。 現在よく見られるエルゴノミクスマウスの背面形状には、大きく分けて二つの方向性があります。
一つは、IE 3.0、EC2、E1のような従来の曲線を受け継いだ形状で、主に力を加える位置が手のひらの中央付近にあります。
もう一つはAXのように、ふくらみのある背面で手のひらをしっかり支える形状ですが、人によっては、手のひらへの当たりが強すぎると感じることもあります。
私の観察では、エルゴノミクス形状の背面の曲線を調整し、マウスを動かす際に力を加える位置を手のひらの付け根側へ移すことで、親指の付け根にある母指球と、小指の付け根にある小指球を使って、マウスをより動かしやすくなります。これにより前後の操作が安定し、少ない力でも動かせるようになると考えました。
左のE1は、一般的なエルゴノミクスマウスの背面の曲線です。右のXliteは、後部下側の支えを増やしています。この曲線の違いによって、手のひらで力を加える位置も変わります。
そのため、私が調整したのは、単にマウス背面の高さだけではありません。後部下側の支えを増やすことで、母指球、小指球、そして手のひらの付け根がマウスの背面により自然に沿い、マウスを動かしやすくしました。この設計は、手のひらをマウスの背面に預けて操作する方にも、より適した形状だと考えています。
背面の調整によって、安定性は目標としていた水準に達しました。次に取り組んだのは、左右に動かす際の軽快さです。左右に動かす際は主に親指、薬指、小指を使うため、マウスの幅は、これら3本の指で力を加えたときの感覚に直接影響します。
これをさらに確かめるために、幅の異なる3種類の形状を作りテストしました。幅の広い形状は安定性に優れていましたが、切り返しの軽快さに欠けていました。
一方、幅の狭い形状は軽快に切り返せるものの、安定性が十分ではありませんでした。 最終的に選んだのは、その中間の幅でした。当初掲げていた目標に最も合致していたからです。
「Xliteによって、エルゴノミクス形状を好む方々に操作時の安定性と軽快さを両立してほしい」
形状だけでなく、私たちはトラッキングの調整・開発にも携わりました。VAXEEの競技モードのトラッキングに慣れている方には、新しいXliteでも、VAXEEマウスと同じトラッキングの反応と、手の動きに追従する感覚を体感していただけると思います。
Xliteは、既存のエルゴノミクス形状に取って代わることを目指したものではありません。エルゴノミクス形状を好む方々に、もう一つの選択肢を届けたいと考えています。たとえ操作性の向上がわずか1%だったとしても、こうした小さな違いにこそ、形状の調整を重ねる価値があると私は思っています。

また、私を信頼してXliteの設計に招き、長年培ってきた考えを製品に落とし込めるよう、十分な裁量を与えてくださったPulsarのShim氏にも、心から感謝しています。
振り返ると、選手時代の敗北は当時の私にとって大きな衝撃でした。
しかし、負けたからこそ自分よりも良い結果を出している選手を観察し、どのような機材を使い、なぜそれを選んでいるのかに目を向け、マウスの形状と操作の関係を改めて考えるようになりました。
当時はただ、自分が負けた原因を知りたかっただけでした。それが思いがけず新たな転機となり、観察から得た細かな気づきを形状の開発に生かすようになりました。その経験は、後のEC2、そして今日のXliteにもつながっています。













